ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
結可子の、耳にかかる吐息が、くすぐったい。
振り返ると、舌をペロッと出して。
とびきりの笑顔を俺に“魅せて”きた。
あ……………。
エリ―――――
心臓から全身にかけて一瞬、軽い痺れ。
結可子なのに、一瞬。
ほんの一瞬だけ。
エリに見えた―――――
「婚約おめでとう。後でゆっくり話聞かせてね」
手を洗い終えた結可子は。
擦れ違いざま、俺の右の耳元に柔らかい吐息と囁きを残し、トイレを後にした。
余韻に浸っていたわけではないが。
俺はしばらくその場から動けずにいた。