ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
たたたっと、俺の前に小走りで回り込み、行く手を阻む。
「真一、今日は………アリガト」
深々と、結可子は俺に一礼をした。
「何だよ………あらたまって………頭、上げろよ」
「イヤ」
「いいから上げろよ」
「イ・ヤ・だ。気が済むまでこうしたいのっ」
「ンだよ………頑固な奴だな………」
俺が身を低くし、結可子の顔を覗き込む。
結可子………。
ギュッと強く瞑った目尻から、涙が今にも零れるくらいギリギリ一杯に溜めていた。
まだ明けぬ朝。
暗くても、俺にはハッキリ解った。
俺に気づき、少しだけ顔を上げる結可子。
その結可子の僅かな吐息が、俺の鼻の頭の産毛を微かに撫でていく。
と、同時に、心臓がドクンと跳ねる
急に、至近距離に意識してしまう。
いつ、唇を重ねても不思議じゃないくらいの距離。
さっきまで、疚しいことなんて、全然考えてなかったのに。
急に、結可子を意識している自分がいる。
懐かしい結可子の匂い。
一瞬にして、結可子との思い出がフラッシュバックする。
今、ここで結可子にキスしたら、俺たちはどうなるんだろう?
抱きしめたら、どうなるんだろう?
月曜日から、またいつもの二人で………。
診断士を目指す、一同期生としていられるんだろうか………。