暴君とパシリちゃん
その言葉に、今度は港が眉を寄せた。
「おいおい…石井港が、人のもんに手ぇ出すわけ?」
男は本当にビックリしたのか、タバコを吸うのも忘れて港を見ている。
「だよなぁ…ビックリだよなぁ…」
そう言いながら港は笑っている。
自分でも思っている。
黙っていたって女は寄ってきていた。
それなのにわざわざ別の男に惚れてる女が一番欲しい。
「マジで!?うっわぁー…」
「うるせぇよ…正也」
正也と呼ばれた男のタバコが、灰になり落ちていく。
「見てみたくなったわ…元地味なメガネっ子…」
正也は思い出したようにタバコを吸った。
「行くなよ。お前みたいなのがいきなり現れたら怯えるだろうが」
「失礼なヤツだな…」
正也は笑って港を殴る真似をする。
それを片手で払い除けると、港は軽く手を振り、家へと向かった。