図書物語
第1章
はじまり
「私、ここ好きです」
本を棚へ返す作業をしている彼の背中を見ながら、ぽつりとつぶやく。
その私の独り言みたいな言葉に彼が振り向いた。
そして、ふっと笑みをこぼした。
目を細めて、口元に綺麗な弧を描く笑い方。
それは私の、胸の奥のもっと、心臓よりも、もっと深くにある何かを、きゅっと音をたてて震わせる。
「本、すごい好きだよな」
「え…?あ、はい、すごく好き…です」
『あなたが』
なんて、
言えるわけないけれど、本当の気持ちはそうなんだ。
本は、好き。
だけど、それ以上にあなたが好き。
ここに毎日通うのだって、あなたがいるからなんです。