図書物語
「あ、の……、なま、え…」
「ん?」
声が、上手く出ない。でも、聞きたい。聞きたいんだ。
「名前…、教えてもらってもいいですか…?」
搾り出すように、私は彼に言った。
だって、どうしても、知りたいと思った。
何一つ彼のことを知らないまま、このまま終わってしまうなんて嫌だった。
もう、関わることなんかなくとも、彼を名前で呼ぶ機会なんてこれから先巡ってなんか来なくとも、せめて、今、この一瞬でも、彼の名前を呼びたいと思った。