図書物語
変な奴だと、思われただろうか。
逃げて、転んで、怪我をして、それに加えて、急に名前なんか聞いてきて。
気味の悪い奴だって、思われてしまっただろうか。
そうだったら、胸が、いたい。悲しくて苦しくて。
でも、だったら、近づかない。知りたいなんて、もう思わない。
だから、最後に名前を教えて欲しい。一度きりだけでもいいから彼の名を呼んでみたい。
なんて、私、馬鹿みたいだな。
「…呉夜冬磨」
「く…れや、とうま……?」
「そう。くれや、とうま」
そう言って、彼は空中で指を動かして名前をかいてみせた。