Magical Moonlight
それから、彼は、いろんな話をしてくれた。

学校のこと、テニスのこと、家族のこと。他にも、いろいろ。

その話を聞いているだけで、あたしは幸せな気持ちになった。

もちろん、あたしには、未知の世界なんだけどね。


月がかなり高く上がった頃、

「そろそろ帰りましょうか。あなたも、ご家族が心配してるでしょう」

と、彼の方から言ってきた。

「あ、は、はい…」

あたしは、急いで立ち上がった。でも、二本足に慣れてないので、バランスを崩して、ちょっとよろけてしまった。

「危ないですよ」

彼が支えてくれる。

「貧血でしょうかね。女性には多いらしいですから」

そう言って、また微笑んでくれた。

「じゃ、帰りましょうか。途中まで送りますよ」

彼は、あたしの肩を抱いて、そのまま歩き出した。…すごく、ドキドキしている。


結局、彼は、あたしの家の前まで送ってくれた。

「ここまで来れば、大丈夫ですよね」

あたしは、軽くうなずいた。

「また、会える日が来ますよね」

それには、答えることができなかった。

この姿でいられるのは、ひょっとすると、今日だけかもしれない。

明日からは、いつもの、犬のキャシーなのだ。

「すぐに、でなくていいですよ。またいつか、会える日を楽しみにしています」

彼は、そう言って、あたしにキスをした。

「じゃ、またいつか」

彼は、あたしに微笑みかけると、自分の家の方向へと歩き出した。


その後姿を見送りながら、あたしは、まだドキドキしていた。

彼に抱かれた肩に、彼の手の感触が残っている。

彼がキスした唇に、彼の唇の感触が残っている。

彼の微笑みが、脳裏から離れない。

彼がいなくなった後も、あたしはしばらくそこにたたずんでいた。

と、


  ボーン、ボーン…

家の中から、時計の音が聞こえてきた。…鐘が、鳴っている。

あたしは、急いで家の中に入った。このまま、犬に戻ったら、大変だから。

玄関に入った途端、体が光り出し、…あたしは、犬に戻った。
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