記憶の扉
病室に戻ると父はまだ眠っていた。
じっと寝顔を見つめる。
こんなにまじまじと父の顔を見るのは初めてのことだった。
ちょっと本物じゃないような気がした。
その顔に手を伸ばそうとしたとき、わたしの気に揺り起こされたのか、イビキが止まり、父は目を開けた。
しばらくわたしを見ていたが、合点がいったように目を細め、ゆっくりと口を開いた。
「わざわざ、すまんかったなぁ」
それだけ言うとまた目を閉じた。