記憶の扉
「実は前から話そうと思ってきた事なんだが、なかなか機会がなくてな」
父は改まってそう言うと、視線を母に送った。
母は何も言わずに立ち上がった。
「僕も席をはずしましょうか」
裕樹はそう言うと腰を浮かしたが、父に止められ、座りなおした。
父は手を伸ばし、わたしの手を取った。
その時、母が閉めたドアの音が優しく響いた。
「おまえ、お母さん、好きか」
わたしは父の言葉を計りかねる。
「そんな、好きも嫌いもないでしょ」
そう言うわたしの顔を睨みつける父の顔がやけに真剣で、ちょっと逃げ出したい気分。
「大好きに決まってるじゃない。・・もちろん、お父さんも」
「嘘つけぇ。いや、まあ、お父さんのことはどうでもいいんだ。そうか、お母さんのこと大好きか・・」
「お母さんを大事にしろって話なら、断るからね。それって、自分で大事にしてちょうだい」