記憶の扉
母に連れられて、裕樹とわたしは坂を上っていく。
坂を上りきると見覚えのある景色が広がった。
きっと、あの角を曲がったところ。
かすかに記憶がよみがえる。
(間違いない。小さい頃、お母さんと来たことがある)
母は半開きになった玄関から中をのぞき込んだ。
「あらあら、妙子さん。写真、持ってきてくださったの。まあ、中へ中へ」
わたしも母の後に続いた。
そのおばあさんはわたしの顔をみて、不思議そうな顔をした。
「あっ、・・」
声をもらすなり、手で口を押さえ、わたしを見つめた。
ただただ、じっと身じろぎもせずにわたしを見つめた。
「お、お父さん、お父さん。悦ちゃんが・・。悦ちゃんが、悦ちゃんが・・」
裕樹に背中を押され、見ると壁一面にわたしの写真が飾られていた。