記憶の扉
列車は真夜中すぎに博多駅を出ると南に向かった。
しばらくは街の明かりが揺れていたが、それも一時のことで、やがて窓には裕樹とわたしの姿しか映らなくなった。
夜行列車に乗ると人恋しくなると言ったのは誰だっただろう。
暗闇で遮断された空間の中にいると、なんだかわかるような気がする。
振動で脳が刺激され、忘却の彼方から取り留めのない記憶を拾い集めてくる。
わたしは父が嫌いだった。
父はわたしと違って、器用な人だった。
仕事はもちろん、大概のことなら何でも上手にこなした。
その上、人当たりも良く、人望も厚かった。
小学生のわたしはそんな父が自慢でならなかった。