記憶の扉
列車はホームに入ると時間を掛けてスピードを緩め、あげく雑に止まった。
「これだもんなぁ。夜行列車って新人運転手の練習台らしいよ」
わたしは思考の底からゆっくり舞い戻る。
ホームの明かりがやけに眩しい。
「着いたの?」
「まさか、まだ半分も来てないよ」
口がにがく、缶ビールを手に取り、最後の一口を下品にすすった。
ぬるくなったビールが喉をうるおしたような気がした。
「買ってこようか?」
「ううん、もう、いい・・
そう言いかけて、握りつぶされた裕樹の空のビール缶に目がいった。
「時間あるの?」
「ああ、30分の停車だ」
「そんなに・・」
「早く着きすぎないように時間調整してんだろ」
二人でホームに降りたが、キヨスクは閉まっていた。
真っ赤な自販機だけが煌々と明かりを灯していた。