輝かしい変貌
「ただいま…」
高橋さんは赤ら顔で玄関の戸を開ける。
「遅かったじゃない。また飲んでたの?お酒はほどほどにしなさいって言ってるでしょ」
「ごめん。それよりも大事な話があるんだ。」
「何よ、妙にかしこまって。お嫁さんでも見つけた?」
リビングのイスに向かい合って腰を降ろす。何年ぶりだろ、母さんと真っ正面から会話をするのは。高橋さんは帰路中、何度も話し方をシミュレーションした。言うしかないんだ。もう歯車は回り出している。
「母さん、今朝毎晩夢を見るって言ったろ?あれには意味があるみたいでさ…今のこの国を変えるため、僕らは立ち上がろうとしてるんだ。他にも仲間が二人いる。いずれも夢のお告げを聞いて立ち上がったんだ。でも母さんも同じ夢を見てる。だから母さんにも僕らと一緒に戦ってほしいんだ。本当は母さんをそんな危ない目に合わせたくない。でも…」
そこで高橋さんは言葉を止める。目からは一滴の涙が零れ落ちる。
「分かってるわよ」
その一言で高橋さんは顔を上げた。いつになく優しい眼差しでこちらを見ている母親がにじんで見える。
「全てはあの夢のおじいさんから聞いてるよ。私だってまだ若いんだから。やってやるよ」
「母さん」
「あんた達が大人になる頃には平和な国にしてあげたい。親として当然の義務よ」
「母さん!やろう!」
二人は抱き合った。何とも感動的なシーンだった。
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