パノと魔法使いとその仲間
空は晴天。絶好の引越し日和だ。あらかた引越しの準備が済んだアパートの外では、アヤと大家のおばさんが話をしていた。

「本当にお世話になりました」

「いいんだよ。それより体に気をつけて、向こうでも頑張りなよ」

「はい。ありがとうございます」

「それにまだまだ若いし器量も良いんだから、ダンナをもらいなよ」

アヤは苦笑いしながら「はい」と返事を返す。


そこへ引っ越し屋が階段を降りてきた。

アヤを見つけるとタオルで汗を拭きながら簡単な報告をする。

「これで全部ですね。あと、ゴミはまとめてますから」

「お疲れ様でした。ありがとうございます」

「ゴミは捨てといてあげるから置いてていいよ」

大家は引っ越し屋さんの言葉を聞くと、笑ってそう言った。

「いいんですか?」

申し訳なさそうにアヤは遠慮したのだが、大家は「いいよいいよ」と言って、アヤを押し戻した。

「すいません、じゃあお願いします」

頭を下げると、後ろでトラックのエンジンがかかる。窓から顔を覗かせた引越し屋がアヤに声を掛けた。

「じゃあ、先に行きますよ」

「はい、こっちもすぐに行きますから」

返事を聞くなり動き出したトラックは、黒い排気ガスを撒き散らしながら、のんびりとその先の角を曲がった。

それを見送ると、大家にもう一度挨拶をしてアヤは赤い車に乗り込んだ。
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