パノと魔法使いとその仲間
慌てて走り去ってゆく男の足音を聞いてその手をどけると、足元には誇らしげに尻尾を揺らす黒猫の姿があった。

「マイケル、まだお金もらってなかったんだけど」

「みゃ?」

「あんたの晩御飯を買うお金が無くなったってことだけど、分かる?」

「み……」

ピンと立てた尻尾が力なく地面に落ちた。すると今度は女性の足首に絡みついて文字通り猫なで声を鳴らした。

「ネズミでも取ってくるんだね。もう知らない」

冷たく言い放った女性は、無言で椅子に腰を下ろす。すると追い討ちをかけるように雨が頬に落ちてきた。

「あーんもう、最悪」

小さな街には雨を遮る大きな建物もない。

駅前で商売を始めたところ駅員に追い出され、比較的大きなショッピングモールにたどり着いたのだが、商売を許された場所は屋根もない、正面入り口からは大きく迂回した壁伝いの場所だった。

「今日はもう店じまいだね」

陽が落ちてあたりは暗くなってきている。この店も午後7時には閉まると言う話だ。懐から懐中時計を取り出すと、その時間まではあと20分もなかった。

「行くよ、マイケル。今日の寝床を探さなくちゃ」

椅子をたたんで机の脚を外すと、大きな袋に詰める。そしてこれまた大きなショルダーバッグを抱えると、その中から折り畳み傘を取り出してポンと広げた。

待ってましたとばかりに、マイケルが肩に飛び乗る。

まるで手乗り文鳥のように肩に居座ると、特にバランスを取る様子も無くそこに収まった。
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