鈴が鳴る時―王子+ヌイグルミ=少年―
「あ、白石鈴音ですっ!」

 少女は慌てて答える。なぜか、かなり緊張しているようだ。

 夏章は鈴音に向かって優しく微笑んでから今度はヌイグルミを見る。

 ヌイグルミは着地したきり全く動かなかった。つぶらな可愛い両目で夏章を静かに見つめている。

「いつからその格好に変わったのですか?着ぐるみ趣味があるなんて知りませんでした」

と夏章が呆れたように言うとすぐに

「うるせー!」

と初めてヌイグルミが喋った。

 夏章はじっとヌイグルミを見つめる。―――が、数秒後、肩が小刻みに震え始めた。

 そして最後にはヌイグルミにお構いなしで、大声で笑い始めた。

 いきなり笑い出した青年を困惑したように見る鈴音。

 気分を害したようで無言になったヌイグルミの暁。

 ひとしきり笑った後夏章は振り返り、鈴音に軽く会釈した。

「大変失礼いたしました。初めまして。暁王子の全責任者、兼しつけ役、兼監視役などをさせてもらっています、夏章です」

「はい?」

 鈴音は更に困惑した表情になる。

 夏章は嫌な予感がした。顔だけをヌイグルミに向ける。

「まさかとは思いますが…まだ事情を話「してねぇよ」

 言い終わるより先に返事が返ってきた。

 夏章の頭の中で何かの糸がぷつんっと切れる。

 その音は鈴音達にも聞こえ、首を傾げた鈴音。

 夏章は腰のベルトから吊っているサーベルケースというか、ホルスターのような物から、細かい装飾が施された細く長い木の棒、『杖』を取り出した。

 杖を軽く一振りすると、杖は特徴的な赤と黄色の玩具のハンマーへと一瞬で変わる。

 それを片手に持って夏章はずんずんとヌイグルミに向かって歩いていった。

 その表情は笑ってはいるものの、こめかみには怒りマークがくっきりと浮き出ている。

 はっきり言って恐い。

 夏章がピコピコハンマーを持っている方の手を振り上げた刹那

ピコーーーーーーーーーーンッ!!

 高い、緊張感の全く無い音が辺りに響いて、すぐに暗闇に吸い込まれて消えてしまった。
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