鈴が鳴る時―王子+ヌイグルミ=少年―
 夏章はそんな鈴音の気持ちには全く気付かず、鈴音の行動を見て暁の言い分に納得してしまったらしい。

 苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 すると辺りの殺気がすぅっとなくなり、暁が勝ち誇った声で

「それに、俺は説明が大の苦手だ!!」

 などと言う。

 それは堂々と言うものなのか?

 夏章は大きな溜め息を一つこぼす。

「だから嫌だったのですよ…」

 という呟きが聞こえた。

「それはそうと、」ぱっと視線が暁に戻る。「本当にいつまでそのお姿でいらっしゃるおつもりなのですか?」

 さっきも言った問いをまた繰り返した。

「……」「……」「……」

 長い沈黙が三人の間におりる。

 夏章のまたもや嫌な予感。そしてそれは必ずと言ってもいいほどよく当たる。

「…まさか、詠唱、忘れていたりなんかしませんよね?」

「……」

 更に気まずい沈黙。

 さっきの勝ち誇った様子はどこへやら、今はヌイグルミがとても小さく見えた鈴音だった。

 夏章の二回目の溜め息。今晩は溜め息が多いな。

「まったく。だからあれほど人の話を聞けと言いましたのに…覚悟しといて下さいね。後でたっっっぷりと説教です」

 あ。また恐い。笑顔が恐い。

 夏章はハッキリと宣言すると、ハンマーを軽く一振りして元の杖に戻した。

 そのまま暁に近づき、ヌイグルミの頭を杖で軽く二回叩くと、杖を持つ方とは逆の手で頭の上に手を置く。

 そして何かをブツブツと唱え始めた。

 話す速さが早すぎるのか、それとも、もともと鈴音の知らない言葉なのか、何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 数秒呟くと、夏章は置いていた手を静かに上へと上げていき、上げながら数歩後ずさる。

 するとヌイグルミの頭から、霧のような、なにか奇妙なものが手の軌道に沿って出てきた。

(あれは…魂)
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