鈴が鳴る時―王子+ヌイグルミ=少年―
 夏章はまた考え込み始めた鈴音を振り返り、サッと肩膝を立てて座る。

 鈴音はいきなりの行動に思考を打ち切られ、驚いて二、三回瞬きをした。

「なにかお考えのところ失礼しますが、改めてご紹介させていただきます。こちらにいる方は、魔法国 ミュールの第五千三百七十一代目の暁王子でございます」

 鈴音は目を白黒させた。…五千なんだって?

「そして私は先ほども申し上げましたが、暁王子の全責任者、兼しつけ役、兼監視役などの役目をさせてもらっています、夏章です」

 そしてニッコリと最高の微笑で

「初めまして、鈴音様」

「ふぁ?」

 鈴音は間の抜けた声を出してしまった。

 詩穂ならともかく、鈴音様なんて(お店以外で)呼ばれたことがない。

 しかも王子って何?今目の前にいるこの人って王子だったの?こんなのが?

「外でお話しするのもなんなので、少々お待ち下さい。あ、危ないのでちょっとお下がり下さい」

 夏章は鈴音達が下がるのを見ると、立ち上がって腕を前に伸ばし、杖の先端を下に向けて持った。

 そしてまたさっきのようにブツブツとなにかを唱え始める。

 やっぱりなにを言っているのかさっぱり分からない鈴音であった。

 すると今度は地面、屋上なのでコンクリートが盛り上がり、上へ上へと空に向かって伸びていく。

「は?」 

 鈴音がぽかーんと見上げている中、数十秒後、そこには二階建てくらいの大きさの立派な家が建っていた。

 色は鼠色。コンクリートから出来ているのだから仕方がないのだろう。

 形は正方形で、ちゃんと窓もドアもあった。

「さぁ、中へどうぞ」

と言って夏章が鼠色の扉を開ける。

 鈴音が戸惑って立ち止まる横で、暁はさっさと入っていった。

(さっすがお坊ちゃま。慣れてるな~)

 などと皮肉に考えてしまう鈴音である。

 だけど、普通はレディーファーストではないのだろうか?そこは身分の差か?

「どうかしましたか?」

 そんな事を考えている間も夏章はずっと扉を開けて鈴音を待っていた。

 鈴音は我に返り、申し訳なさそうに小走りで扉をくぐる。
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