ケータイ恋愛小説家
綾乃はそっと手を伸ばして、頭を触り、無言のまま自分の頭の上に乗っかっていたものを取った。

それはさっき先生に取り上げられたキャンディだった。

「没収」なんて言いながら、ちゃんと返してくれたんだ。


「なぁんだ……良いとこあんじゃん。田中先生」


先生を見直したあたしは「ね?」って確認するように綾乃の顔を覗き込んだ。

綾乃は真っ赤な顔して、手にしたキャンディをじっと見つめていた。

気のせいか目が潤んでいるような気がした。

まるで今にも泣きそうなのを我慢しているかのように、への字に結ばれた口元。


ひょっとして……


「綾乃……」


「ひーなた!」


言いかけたあたしの言葉を遮るように、あたしを呼ぶ声がした。


振り返ると、クラスメイトの春奈がニコニコ顔でこちらに近寄ってきていた。
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