ケータイ恋愛小説家
「ふーん」


二人が去った後、ハチは頬杖つきながらあたしを見つめる。


「なっ、何?」


何故かあたしは警戒心剥き出しで身構えた。


「日向って、男と付き合ったことないんだ?」


「わっ……悪い?」


「ぜーんぜん。むしろうれしいね。だって、全部オレが初めてになるわけでしょ?」


ハチはそう言うと、目の前のジュースを口にした。


「ちょ……ちょっと待ってよ! あたしまだ付き合うって返事してないじゃん! つか、やめてよ! そういうエロい発言は!」


「エロい?」


ハチはストローから口を離してハハハと笑った。


「オレ、別にエロいことなーんも言ってねーよ? 勝手に想像してんのはそっちでしょ? 日向のエッチー!」


「なっ……」


あたしはワナワナと震えた。


何なの?

この人……。


つかみどころがないってこういうことを言うんだと思う。

さっきから彼の不思議なペースに呑まれっぱなしだ。


あたしはプイッとむくれて窓の外を見た。

相変わらず外は雨が降っていて、おぼろげなグレーの景色の中に、色とりどりの傘が映えていた。

その中にひときわ目を引く鮮やかなブルーの傘。


その傘は、あたしのいるファーストフード店のまん前のビルの前で立ち止まった。


ビルの軒下で体の向きを変えて傘を閉じると、その人物がはっきりと確認できた。



やっぱり……美雨ちゃんだ。


さらにそのすぐ傍にある、男物の大きな黒い傘。


多分それは……。


傘が閉じられた瞬間、あたしの中でまた胸がチクリと軋んだ。






――蓮君。





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