ケータイ恋愛小説家
ハチの言葉に驚いて、あたしは勢い良く顔を上げてしまった。


「オレ……」


ハチは頬杖ついて、飲んでいたジュースのストローを口に咥えたままゆっくりと話し出した。


「日向は気づいてないだろうけど。ずっと前から日向のこと知ってた」


「え……」


「日向ってさ。いつも学校から走って帰ってなかった?」


「えっ……うん」


たしかにそうだ。

あたしはいつも駆け足で家路を急いでいた。

それは家に帰ってパソコンを触るため。

小説を書くためだった。

そんな姿をハチはずっと前から見てたってこと?




「オレさぁ……洋介らとつるんでよく出待ちしてたんだよね。校門前で……いわゆるナンパ目的で」


ハチは思い出し笑いするかのように、優しい表情になって、フッと頬を緩めた。


「一度だけ、日向に声掛けたことあるんだ。覚えてない?」


あたしは首を横に振った。

本当に全く記憶になかったから。


「そっか……。やっぱな」


ハチはクスクス笑う。


「あん時さぁー。日向、オレに何て言ったと思う?」


「あ……」


じっとあたしの目を見つめて、そう問いかけるハチの顔を見ていると、だんだん記憶が甦ってきた。


そういえば、そんなことあった気がする。

急ぎ足のあたしの腕を急にひっぱって呼び止めた男の子。


――『何、そんなに急いでんの? ね? 遊びいかない?』って。


それであたしは……たしか……。
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