ケータイ恋愛小説家
「アナタと遊んでるヒマなんてありません……」


ふいにあの時のことを思い出し、ポツリと呟くあたしに、ハチは一瞬目を丸くしたと思ったら、満足げにニッコリ微笑んだ。


「オレ……わりとナンパ成功率高くてさ。あんな冷たくされたの初めてだった」


確かに、ハチのルックスだったら、声を掛けられて喜ぶ女の子は多いかもしれない。

きっとあたしが変わり者なんだと思う。

あの時、あたしの頭の中には小説のことしかなかったんだろうな。


「ごっ……ごめんね」


「謝んなよー。余計傷つくっつの!」


「ごっ…ごめんっ」


「また謝ってるし……」


ハチは何がウケるのか、クスクス笑った。



「それからも時々日向を見かけるたび、いつも走ってて……。いったいこの子は何をそんなに急いでるんだろう……て気になり始めて、あれ以来ずっと日向のこと見てたんだ」


そうだったんだ……。

ほんとに全く気づいてなかった。



「そしたら最近……なんか雰囲気変わったなって思って」


「……え?」


「……なんていうか……」


ハチはあたしからふいと目をそむけた。

気のせいか、その頬がほんのり紅く染まった気がした。

そして、窓の外を見ながらボソッと呟く。



「……可愛くなった」
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