ケータイ恋愛小説家
さっきまでは女の子に優しい言葉をかけていたけど……

今目の前にいる先生はいつものように、ちょっと意地悪な表情をしている。


あうううう……。


あたしはどうしたらいいかわからず、ただ口をパクパクさせて先生の顔を見上げていた。



「先生、モテて大変だね」


口を開いたのは、綾乃だった。


先生はフッと笑みをこぼすと

「今見たことは内緒な……」

そう言って人差し指を口元にあてて、軽くウィンクをした。


その姿は、あたしでさえドキンとするほど魅力的だった。



「……先生、今困った?」


綾乃が質問した。


「もう帰りなさい」


先生はその質問には答えず、窓を閉めようと窓枠に手を掛けた。


「ねぇ? 今『好き』って言われて、困った?」


綾乃はさっきより声のトーンを上げてもう一度訊く。

声が震えて、今にも泣きそうだ。


「困ってないよ。その気持ちはうれしいんだ」


先生はあたしの知る限り一番優しい表情でそう言うと、綾乃の髪をクシュクシュと撫でた。

この光景を見て、あたしは何故かギュッと胸が締め付けられるように苦しくなった。


先生は静かに窓を閉め、カーテンを引いた。

あたし達からはもう先生の姿は見えなくなってしまった。
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