ケータイ恋愛小説家
あたしはゆっくりと顔を横に向け綾乃を見た。

この間から薄々感じていた。

綾乃の気持ち。


他のどの教科よりも数学が得意だった理由は……


――田中先生が好きだったから。




「……クッ……ヒィック……」


綾乃はポロポロと涙をこぼして、泣き始めた。


いったいいつからその想いを胸に秘めていたんだろう。

もう押さえきれない想いは涙とともに溢れてこぼれる。

綾乃はそのまま座り込んで膝を抱えて泣き続ける。


何もできないあたしは、ただ傍にいることしかできなかった。



どれぐらいの時間、そうしていたんだろう。

ひとしきり泣いた後、綾乃はふいに顔を上げた。


目はまだ充血していて、瞼が腫れているのが痛々しい。


「綾乃……田中先生のこと……」


あたしは遠慮がちに綾乃に質問した。


「ぐす……」


綾乃は鼻をすすって、まだ震える声でゆっくりと話してくれた。
< 169 / 365 >

この作品をシェア

pagetop