ケータイ恋愛小説家
しばらくして、顔を上げたあたしは自分の小説を読み始めた。


あたしの妄想が作り上げたバカみたいな内容。


ヒロインはどんなにドジでおバカで冴えない女の子でも、王子様みたいに完璧な男の子が彼女を好きになってくれる。


こんなこと、現実にはありえないんだよ。


素敵な王子様には、キレイなお姫様じゃないとやっぱダメなんだよ。


もう書けないよ。

だってあたしは現実を知ってしまったから。


読者に夢を与えるなんてできないよ。


あたしはパソコンの画面をぼんやり眺めた。


あたしのハンドルネーム“ヒマワリ”をイメージした向日葵の花の画像がトップページに貼ってある。


読者はあたしのことを23歳のOLで、恋愛経験豊富で……多分、この向日葵のように明るい女性をイメージしてるんだと思う。


だけど現実のあたしは全然違う。


誰とも付き合ったことなんかなくて、誰かに自慢できるようなところもまるでなくて、どこにでもいるような平凡な高校生。


“ヒマワリ”はあたしが無理して作り出した虚像。


あたしであって、あたしでないんだ。

ここはあたしの居場所のような気がしてたけど……それは、ありのままのあたしじゃない。

あたしの居場所なんて本当はどこにもなかったんだ。


――“向日葵”なんてキライ。



あたしはパソコンの電源を落とした。


もう無理だよ。


――何も書けないよ。
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