ケータイ恋愛小説家
慌てて否定しようとしたけど、言葉が出てこない。

代わりにハチが口を開いた。


「いえ。友達っすよ? でも……」


ハチはいつになく落ち着いた声で。

まるで蓮君を挑発するような態度で言葉を続ける。


「そのうち、そうなる予定です」


その冷静な口調とは裏腹に、あたしの手を握る力が増した。

その瞬間、ハッとした。


そうだ……。

あたし今、手を握られたままだったんだ。

――ヤダッ

蓮君に見られたくないっ。

そう思って振りほどこうとするものの、ハチがそれを許してくれない。

もう痛いほどに握り締められていた。


「なんだ……そういうことか……」


何を納得したのか、蓮君はポツリと呟く。


そしてにっこり微笑んだ。


「じゃ、これやるよ。二人で行ってくれば?」


蓮君はそう言うと、細長い封筒のようなものをそのままハチの胸ポケットに入れた。


そしてそのまま背を向けて、あたし達から去って行った。



――あれ? 

美雨ちゃんと待ち合わせしてたわけじゃなかったの?


どんどん小さくなる蓮君の後ろ姿を見ながらふとそんなことを考えたけど……

それよりも、わたしはハチとのことを蓮君に知られたことがショックで……

そのことで頭がいっぱいだった。


いや、見られても別にいいんだけど……。

だって、蓮君にとってあたしなんてなんでもない存在なんだもん。

あたしが誰と付き合おうが、蓮君にとってはどうでもいいことなんだよね、きっと……。
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