ケータイ恋愛小説家
トイレの洗面台の鏡に映った自分の顔を覗き込み、ほっぺを両手でペチペチと叩く。


まだほんのりと頬が赤い。

もぉ……顔に出まくりだよ。


あたしは勢いよく蛇口をひねると、訳もなくゴシゴシと手を洗った。

ああ……どうしよ。

まさか人生初の合コンでいきなり王子様に出会うなんて……。


冷たい水が次第にあたしの指先からクールダウンしてくれた。



でも……

考えてみたらラッキーだよね。

取材のためならどんな男でもいいや……ぐらいに思っていたのに。

あんな素敵な人に出会うなんてさ。

しかも、いきなり“恋”が始まったりしちゃって。

きゃぁあああ。

このまま大輔君の彼女になっちゃったりして―――!(以下妄想……)


ハッ!

顔を上げると鏡にはまた、茹でダコが一匹……。

コホンッ

冷静に……冷静に…なんなきゃ。


あたしは、一息つくとトイレのドアを開けて、廊下に出た。


愛しの彼の元へ戻ると思うだけで、自然と頬が緩み、足取りもフワフワと軽くなっちゃう。

うふふ―――


軽くスキップしながら部屋へ戻ろうとすると、ちょうどあたしと入れ違いにトイレにやってきた綾乃とすれ違った。


「オーッス♪」


なんて軽快に挨拶を交わし、行き過ぎようとするあたしの襟首を綾乃がつかんだ。


「ちょっと……こいって」


「え? え? きゃああああ」











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