ケータイ恋愛小説家
ハチは両手であたしの顔を挟んで無理やり自分の方へ向けた。


そして急に真面目な顔になってじっとあたしの目を覗き込む。


「な……何?」



「こっち見ろよ」


「見てるよ」


だって今、ハチによって向けられてるんだもん。


「そうじゃなくて。 オレのことちゃんと見ろよ……」


ハチはそっと手をあたしの頬からはずした。

窓から差し込む光がハチの茶色い髪を照らしていつも以上に明るい色に見えた。

さらにガラス玉みたいに茶色い丸い瞳も太陽の光を受けて、キラキラと輝いているようで……。

あたしは魔法をかけられたみたいにハチから目をそらすことができなくなってしまった。


そしてハチはいつもよりずっと優しい声でポツリと呟いた。



「オレとつきあって」


「え……」


「別にすぐに答えださなくてもいいけど……。ちゃんと考えろよな」


生まれて初めて告白してくれた男の子は、そう言うと照れくさそうに目をそらしてまたジュースを飲み始めた。



「……うん」



あたしは窓から外の景色を眺めた。

ここからは、以前蓮君と美雨ちゃんが入っていったアクセサリーショップが見える。

その店をぼんやり眺めながら、さっきのでたらめなハチの占いの言葉を思い出していた。


――『振り向いてくれない相手をいつまでも思うのはやめて、目の前にいる身近な男性の気持ちに応えましょう』――か。


それが一番良いのかも知れない。

誰も傷つかないで済む、一番楽な方法。

その楽な方にただ身を任せるだけ。


頭ではわかってるのに……




あたしの心はまだ動き出さないでいる。
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