ケータイ恋愛小説家
カメラのシャッター音がしてあたしは慌ててそちらを見た。


「今、日向ちゃん、最高に良い顔してたから……思わず撮っちゃった」


カメラを抱えたまま律子さんがこちらを見てペロリと舌を出した。


そしてあたしの背中をパシンと叩きながらこう言った。



「恋する女の子はみんな最高に輝いてるんだから! ほらっ、自信持ちなさいっ!」


「はいっ」


あたしは目を細めて微笑んだ。

その拍子に、目の縁に溜まっていた涙が溢れて頬を伝った。



「あー! 何泣かしてんの? 日向ちゃん、大丈夫?」


いつの間にか戻ってきた森本さんがあたしに声をかける。


あたしは慌てて顔を覆った。


「ちがっ……違うんです。悲しいんじゃなくて……うれしくて……でもっ…なんか止まんなっ……うわーん」


あたしは子供みたいに泣きじゃくった。


わけがわからずにおろおろしている森本さん。

律子さんは「よしよし」と頭を撫でてくれた。


蝉の声だけはさっきと変わらず煩くて……


だけど、あたしの中で何かが変わった気がした。


涙とともに、自分を否定してばかりのガチガチに固まっていた何かがほんの少し溶けたような……そんな感じだった。


例えこの想いを告げることができないとしても。


彼を好きだと思うこの気持ちに正直でいよう。


この気持ちに誇りを持とう。


……ってそう思えたんだ。
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