ケータイ恋愛小説家
あれからほどなくして帰ってきた律子さんに浴衣を着付けてもらったあたしは、ぐったりとソファに腰掛けて、クッションを抱きかかえていた。



「まだ落ち込んでんのー?」


律子さんはカメラの機材を点検しながらあたしに問いかける。

そもそも律子さんが悪いんだ!

鍵かけずに出ていってしまうんだもの。


あたしは心の中で律子さんに八つ当たりしてキッと睨んだ。

すると横から蓮君の声がした。


「お前の裸なんてガキん頃から何度も見てるっつーの」


「なによー!」


その憎らしいセリフにあたしは蓮君の方へ視線を向けた。


「……って、きゃああああああ! なんで裸なのよおおおおお!」



あたしは手にしていたクッションを彼に思いっきり投げつける。


「いでっ」


蓮君は黒のボクサーパンツ一枚という姿だった。


もう何なの? さっきから。

刺激が強すぎて、倒れそうだよ。


「しょうがねーじゃん。ここしか着替えるとこねーんだもん。つか、こっち見んなよ、エッチ」


「なによー。人の裸見といてー!」


あたしは側にあったもう一つのクッションも蓮君に投げつけた。


蓮君はひょいとそれを交わすと、ニヤニヤ笑いながらベッドの上に置いてあった浴衣を広げて、着替え始めた。


そんなあたし達の様子に律子さんはくすくす笑ってる。


てか、聞いてないよー!


浴衣の撮影って、あたしだけじゃなかったの?
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