ケータイ恋愛小説家
神社の境内には露店が並んでいて、すでにたくさんの人で賑わっていた。


「カップルが浴衣でデートしてるって設定なの。自然なショットが撮りたいから、二人は適当に仲良さそうにしててよ。あとはこっちで勝手に撮影するからさ」


カメラを掲げて律子さんが言う。


そう言われても……。

慣れない下駄と浴衣のせいで上手く歩けないあたしは、蓮君の数歩後ろをついていくのがやっとだった。

時刻は夕暮れ時。

沈みかけた太陽が蓮君の背中をオレンジ色に染めて、その眩しさにあたしは目を細めて彼の後姿を見つめた。

あたし達にはさっきから何も会話がない。

ただ、カランカラン……と下駄の音だけがやけに響いていた。


「ちょっと、ちょっとー! あのさぁ。せめて手ぐらい繋いで欲しいんだけど」


そんなぎこちない様子に律子さんは不満げな声をあげた。



律子さんの言葉に蓮君はあたしに向かってすっと手を差し出した。

だけど、わたしはその手を取ることができない。


「でも……美雨ちゃんが……」


そうだよ。

蓮君は美雨ちゃんの恋人なんだもん。

いくら撮影のためとはいえ、手を繋ぐなんて後ろめたいよ。


「美雨ちゃん……?」


蓮君は眉間に皺を寄せている。


「うん。だって……」
「ほらほらっ。いつまでそうやって突っ立ってんの! 早く手、繋いで!」


あたしの言葉を遮るように、律子さんがあたしの手を取って無理やり蓮君に繋がせた。
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