ケータイ恋愛小説家
「はい、どーぞ。悪ぃな、日向の好きなアイスティーは置いてねーけど」


蓮君は今日初めてあたしに笑顔を見せると、お茶の入ったグラスをあたしの前にコトンと置いた。


そう。

あたしはアイスティーが大好き。

蓮君がそんな些細な事を覚えていてくれたことが、くすぐったかった。



蓮君はスラリと伸びた長い脚を折り曲げて、またあたしの前に座る。

今考えれば、元々かっこよくなる素質は備えていたんだろう。


メガネをコンタクトに変え、髪型と服装をオシャレにした蓮君は、一般的に言う“かっこいい”部類に入る男性になっていた。

なんか……モテそう。

あたしの率直な感想だった。


「……て、話聞いてる?」


「え?」


蓮君のセリフに慌てて我に返るあたし。


「なんで、男が知りたいなんて思ったんだよ?」


「え?……えとっ……単に興味本位? みたいな……」


あたしはしどろもどろになって答える。

だけど、そんな答えでは蓮君は納得してくれなかった。


「だからって、簡単に男の部屋に入るわけ? お前ってそういうヤツだっけ?」


「だから……それはっ……」


蓮君の挑発に乗って、危うく本音を言いそうになったあたしは、唇を咬んで俯いた。


「なぁ……なんかあったのかよ? 言ってみ?」


ずるい。

そんな言い方反則だよ……。

蓮君はさっきまでとはうって変わって突然優しい言葉をあたしにかけた。


昨日からずっと張り詰めていたあたしの心がぐにゃぐにゃと崩れていくような気がした。


「あのね……」


あたしは堰を切ったように話し始めた。
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