ケータイ恋愛小説家
「お……教えてください」


そう言うと、あたしはまた元の席にストンと座りなおした。


そんなあたしの様子に

「いーね、素直で。それと……ここもお前のおごりね」

そう言って、蓮君はにっこり微笑んだ。


悪魔だ……。

高校生におごらせるか?フツー?

れ……蓮君が意地悪なんじゃん!

こういう人をドSって言うんじゃないのか?



「……で、さっきのありえない小説の話なんだけど……」


「い……いいじゃん」


言いかけた蓮君の厳しい批評をなんとか遮ろうとしたあたしは、声を振り絞った。


そしてそれは一気に爆発した。


「小説なんだもん! ありえなくてもいいじゃん! イケメンの出てこない恋愛小説なんて、それこそありえないじゃん!」


「ひ…ひなた……? 声がでかいって……」


あたしの反論に蓮君は驚いている。

思いがけず大きくなった声のせいで、隣の席の人まであたしを見ている。

だけどあふれ出た気持ちが止まらなかった。


「“S男”とか“甘エロ”がケータイ小説界では人気なんだもん! こういうのが読者にうけるんだもん! それに、一度エッチなこと書いちゃうと、読者はそれを期待して読んじゃうの! だから、いつもそろそろエッチなシーン書かなきゃなぁ……て、多少強引にでも無理やり入れる時だってあるんだよ!」


はぁはぁ……。

なんか胸の奥から何かがこみ上げて涙腺が緩んできた。

顔を見られたくなくて、あたしは俯いた。

しばらくの沈黙……そして……


「あり得なくてもいんじゃね?」
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