ケータイ恋愛小説家
「え?」


蓮君のその言葉に顔を上げるあたし。


いつの間にか彼の表情は和らいで、拍子抜けするぐらい優しい眼差しであたしを見ている。


「小説や漫画なんて、夢を与えてなんぼでしょ? 読者がそれを望んでるなら、それに応えるのも作家の使命なんじゃね? オレが言いたいのはさ……」


「うん……」


「そのありえない設定に、いかにリアリティーを持たせるかだよ。 全然いけてない女の子がイケメンにモテる理由はなんなのか。意地悪な男に心惹かれる部分はどこなのか? お前の小説はさ……」


ゆったりとした口調で優しく話す蓮君の言葉に、あたしはいつの間にか聞き入っていた。


「そのあたりのキャラの魅力とか、微妙な心の動きが抜けてんだよ。それじゃ読者は納得できないしょ? だから、アジサイって人が言っているのは正論だとオレは思うよ。けどさ……」


―――ズズズ……


一息ついて、蓮君はグラスの底の氷の周りにほんの少し残ったアイスコーヒーをすすった。


「これだけ読者がついてるってことは、やっぱ面白いんでしょ? だったら、お前がそういう部分をちゃんと描ききれば、無敵になるんじゃね?」


そう言ってニッコリ微笑んでくれた。


「うん……」


あたしはまた俯いた。

目の奥が痛い。

さっきとはまた違う種類の涙が出てきそう。

蓮君の言葉は、あたしの胸に直球でぶつかってきた。

あたし、もっと頑張る……素直にそう思えた。

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