ケータイ恋愛小説家
「う……うわああああああ!」


あたしは蓮君の笑顔を頭から追い出そうと、ベッドの上で両足をバタバタさせて暴れた。


あ……あれはあくまでも小説のためなんだからね。

蓮君だってそう。

あんなの心がこもってないキスなんだもん。


だけど……。

キスしようとするだけであんなにドキドキするなんて全然知らなかった。

あたしの小説に出てくるキスはいつも強引なキスばかり。

いきなり押し倒されて舌を入れられるとかそんなの。

激しくエッチな表現すれば読者はドキドキしてくれるんだと思い込んでいた。

だけど、違うんだ……。

唇が重ねられるまでの間だけでも、あんなに彼を感じることができるんだ。


そうだ!

あたしはムクッとベッドの上に起き上がる。

この余韻を忘れないうちに、今日の分、小説に書いちゃおうっと。


えーと……

その前におさらい。


あたしは枕を手に取ると、それを顔に見立てて自分に近づける。

そして……


チュッ



「き……きやあああああ!」


あたしはボスッと枕を壁に投げつけた。


だって…

だって…

枕に蓮君のあの色っぽい伏し目がちな顔が浮かんだんだもん。



うわーん。

どうしよ……。

もう、ドキドキが止まんないよ――!


結局その日は何をやっても集中できず、日課の小説をやっと更新できたのは深夜3時を回ってからだった。
< 59 / 365 >

この作品をシェア

pagetop