ケータイ恋愛小説家
あのコンパの日。

大輔君にお持ち帰りされて、彼の部屋で押し倒されたこと。

貞操の危機に直面したものの、たまたま隣に住んでいた幼馴染の蓮君に助けられたこと。

綾乃にはその全てを話してある。

というか、あの日の夜、心配した綾乃から電話がかかってきて、全てを白状させられたのだ。
(といっても、小説の件は相変わらず内緒)



「あんたねー。ほんとに大丈夫なの? 会ったその日に押し倒すようなヤツ、あたしなら信用しないけどね」


「うーん。あれはあたしが悪かったんだよー。大輔君は良い人だよ? 頭も良いし。あたしの王子様なんだもん」


「はいはい。ま、数学できてんならいいよ。もしやってなかったら、教えてあげようかなって思ってたんだけど……」


「そ……そうか。綾乃に教えてもらっても良かったんだよね」


そう。

綾乃は数学が得意。

他の科目はあたしと似たような成績なのに、数学だけはできるんだよなぁ。

あたしなんて、数字を見ただけで頭が痛くなるというのに。

ほんとうらやましいよ。


「あ! これちょうだい!」


突然綾乃が手を伸ばして、あたしのお弁当の中にあった、アスパラのベーコン巻きを奪った。


「あ! ずるーい! 最後に食べようと取っておいたのにー!」


「しょうがないなぁ……。じゃ、これあげる」


そう言って、魚のフライのようなものをあたしのお弁当の蓋の上に置く綾乃。


「何? これ?」


「鱚(キス)だよ? キスのフライ」
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