『叶えたいこと』

さようならの、向こう側。

 「ありがとう。友子のおかげで上へ行ける」
 「ヤ、いやよ!せっかく友達になれたのに!」

 泣くのを必死にこらえて叫ぶ。そんな間も彼の身体はどんどん透けてゆく。

 「やぁっ!イヤぁぁ」

 あたしは必死に手を伸ばす。消えて欲しくない。
 まだ、友達を失いたくない。

 「あ、名前言ってなかったね…ろき。僕の…な…えは…ひろき!」
 「ひろき!ひろきね!」

 叫ぶ。必死に叫ぶ。
 声も遠くなっている。空中に消えかけるひろきの魂を、追う。
 ギィィィ…背中で、屋上の扉の開く音。

 「あ、君塚…って、何やってんだ!危ないっ!」
 「いやぁあ、ひろきが!」

 フェンスに身を乗り出し、手を伸ばす。

 「武田君、…子…よろしく」
 「…!」

 武田君はあたしを抑えながら、ひろきの姿にびっくりしていた。

 「ひろき!」

 次の瞬間、笑顔と共にひろきは消えた。

 「いやぁああ…」

 あたしは全身から力が抜け、あたしを抑えていた武田君ごと屋上の床に倒れこんだ。
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