上手なフラれ方
僕の好きな選手、「禿田鶴男」が入場してきた。

彼はリーゼントのヅラを被った、元ヤンファイターだった。


「なんだ、禿田の試合か。あいつ弱いからなあ」

理沙が笑いながら言った。


たしかに、禿田は弱かった。

もう10戦も戦っていながら、まだ勝ったことがないのだ。


「なんであんなのが人気あるのかわかんないな。あんたもそう思うでしょ?」

僕は反論しようか迷ったが、やめた。

今日の僕は勇気がある。

あくまでも今日は彼女を無視すると決めたんだ。

……別に反論するのが怖かったわけではない。


「……あんた、いいかげんにしなさいよ」


試合開始のゴングが聞こえた。

それと同時に体が中に浮いた。

僕は理沙に襟首を掴まれ、持ち上げられていた。
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