上手なフラれ方
理沙を一言で表すときに、「鬼」という言葉ほど相応しいものはない。

空手部のマネージャーとして過ごした日々は僕を漢にしてくれた。


ある日、洗濯を終えた服を物干し竿にかけていると、側頭部に強烈な回し蹴りが飛んで来た。

「汚れが残ってる」と耳から血を流している僕に言い放ち、何事もないように練習に戻っていった。


またある日は練習のサポートがうまく出来なかった僕に、脳天かかと落としを仕掛けてきた。

口から血を吐いている僕に、理沙は平然と「道場が血で汚れる」と言ってきた。


部員の怪我の応急手当をしていたときも「手際が悪い」と右アッパーを綺麗に顎に決めた。

僕が怪我をしていた部員よりもひどい状態だったことは、言うまでもない。


理沙はのちに大会で優勝し、空手部主将になるほど強かったから、その仕打ちひとつひとつがただ事ではなかった。
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