上手なフラれ方
激しい雨の中を、走っていた。
風はうねりを上げ、コンビニのレジ袋が空を舞う。
空が、一瞬、光った。
月明かりなどではない。
雷は着実に、迫ってきていた。
夏だというのに、寒い。
体中が、濡れていた。
右手に持った傘はさしていない。
雷の中で傘をさせるほどの勇気は持ち合わせていなかった。
坂道を駆け降り、校門を飛び越えようとした。
だが、門に足が引っ掛かり、背中から倒れた。
一瞬、息ができなくなった。
雷鳴が聞こえて、慌てて立ち上がる。
急いで空手場へと向かった。
鍵は開いていた。
迷わず中に入る。
扉を閉めると、激しい雨の音は和らいだ。
水滴を垂らしながら、進んだ。
道場の中へ入る。
床が軋んだ。
理沙が、振り向いた。
彼女は、道場の隅で、体育座りをしていた。
僕の姿を確認すると、すぐに顔を背けた。
彼女は目の前にある小窓から、外を見ているようだった。