上手なフラれ方
「大会が終わって、ここで解散してから、ずいぶん時間経ってるよね。練習でもしてたの?」


もう一度、僕は尋ねた。

理沙は答えない。

そんなわけないだろう、と自分で答えてみる。

大会が終わったその日に、一度も負けなかった人が、練習するために残っているわけがない。


理沙は、大会で優勝していた。

一年生にして、同じ学校の先輩も他校の有力な生徒も蹴散らす、圧勝だった。

本当なら、喜んでいるはずの彼女が、僕の隣で泣いていた。


理沙の涙を見たのは、はじめてだった。

いつも男より強くて、かっこよくて、嬉しくても、悲しくても、涙は見せない。

人を泣かせることはあっても、自分では絶対に泣くことはないのだと、勝手に思い込んでいた自分に気付いた。

わけが知りたかった。

理沙を泣かせた原因はなんだったのかを知りたかった。


「寝てた」

ポツリと、理沙が言った。

「解散して、みんながいなくなってから、ずっとここで、寝てた」
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