上手なフラれ方
「寝てた……?」


理沙が小さく頷いた。

それは求めてた答えじゃない、と心の中で思う。

それじゃ答えになってない。

泣いていた理由にはならない。


そのとき、一瞬、道場が明るくなり、すぐ近くで雷鳴が聞こえた。

理沙が悲鳴を上げて、うずくまった。

啜り泣く声が聞こえてくる。


「もしかして、雷が怖くて泣いてた……とか?」


理沙が頭を膝にうずめたまま、頷く。

僕は、根本的に間違っていたのだと気付いた。

男勝りな性格や、言葉遣いに隠れていた本当の理沙。

理沙も、女の子なのだ。

雷が怖くて、道場で泣いてしまうのも、理沙なのだ。


なぜか笑ってしまう自分がいた。

理沙はこんな人間だと勝手に決めつけ、意外な一面を見て、笑う。

最低だな、と自分で思う。

身勝手だとさえ思う。

僕はひどいやつだ。

泣いている理沙を慰めることもせず、笑っているなんて、最低だ。


僕は立ち上がった。

この場を離れたかった。

自分がダメなやつだと気付いていながら他になにもできなかった。


理沙が、僕が着ている道着の袖をつかんだ。


ドクン。


心臓が、大きく、揺れた。
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