上手なフラれ方
僕は驚いて、理沙の顔を見た。

彼女も、こちらを見ていた。


「コウちゃん……」

すがるような、声だった。

「お願い、一緒にいて……」


心臓が、破裂しそうなほど、激しく動いた。

コウちゃんと呼ばれたのは、初めてだった。

今までは「あんた」とか、「おまえ」とか、そもそも名前で呼ばれたことすらなかった。


「うん」


なんとなく、返事をした。

また、理沙の隣に座る。

彼女はまだ、袖をつかんだままだった。


嫌だとも、嬉しいとも感じなかった。

ただなんとなく、一緒にいてあげたかった。


「ねえ、コウちゃん」

小さい声だった。

窓を打つ雨の音に負けそうになりながらも、僕の耳にははっきりと届く。

「あたし、コウちゃんのことが好きだよ」


窓の外が、光る。

轟音。

理沙の体が震える。

僕はその体を、不器用に抱き寄せた。


「うん、知ってるよ」


そう答えた自分に驚いた。

本当に?

自分に問い掛ける。

ずっとわかってたはずだよ。

心の奥で、僕が答える。

だって、理沙と僕は同じだから。


「僕も好きだよ、理沙のこと」
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