上手なフラれ方
 




あの日と同じ、光景だった。

道場の隅に、彼女が座っている。


今頃思い出す、自分が嫌だった。

僕はあの日から、なにも変わっていない。

相変わらず最低で、ダメ人間で、自分勝手で……、


理沙のことが、好きだ。


理由もなく、ただ、理沙のことが好きだ。

きっと、本当に好きになるって、こういうことなんだろうと思う。

無理矢理に作り上げた理想とか、理由とか、そんなこと関係ない。

ただ、好き。

それだけ。


また、やり直せるかな?

自分に問い掛ける。

わかんないよ。

自分が答える。


遠くで、除夜の鐘が聞こえた。

何回目の鐘だろう、とぼんやり考える。


理沙が、僕を見ていた。

また、やり直せるかな?

足を一歩、踏み出す。

床が、ギシッと音を立てた。



           おしまい
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