君がいた部屋~二階階段前倉庫~


気付いた瞬間、涙はより一層流れた。


頬を伝い、制服を濡らす。


この時改めて感じた。


二度と翔太の声は聞けない。


翔太は、遠い所に行ってしまったんだ。


どれだけ走っても着けない所に。


あたしは声を出して泣いた。


両親が死んだ時よりも泣いているかもしれない。


それだけ翔太はあたしにとって大切な人だったんだ。


あたしは泣きながら、その人の後ろに座った。


やはり彼女も声を出して泣いていた。


彼女の声を聞いてあたしはハッとした。


この声…桜…?


自信はあった。


でも信じられなかった。


桜が翔太のお通夜に来ている?


何で?


桜と翔太は知り合いだったの?


だけどあたしは自然と彼女の名前を読んだ。


「…桜?」


彼女は、桜は振り返った。


泣いていて顔はぐちゃぐちゃだったけど、この人は、桜。


「美羽…」


桜はもっと泣き出した。


泣きながらあたしの名前を繰り返し呼んだ。


あたしも桜の名前を繰り返し呼んだ。


あたしはそうする事でほんの少しだけど楽になる今年が出来た。


ほんの少しだけど、翔太の死を受け入れられるような気がした。


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