【短編】ガラス箱のアリ
後ろに向かせた顔を前に戻すとまたハイヒールがテンポよい音をたてていく。
『…コツ…コツコツコツコツ』
私のマンションには特別な防犯機能はないため、ストーカーなどあり得るかもしれない。
そう思い、何度か警察に相談もしてみた。
しかしそんな曖昧な証言を真に受けてくれるわけなくて。
そりゃあ何か盗まれたとかそういうのではなく、ただ視線を感じるだけじゃ真に受けてくれないのも当たり前に等しい。
それに……。
ストーカーにしてはなんだろうか、姿は全く見えなく、気配もないのにかかわらず、視線だけするのはおかしくはないだろうか?
気配は感じない。
でも視線を感じる。
気配があるから視線もあるのに……。
これじゃあ見えないガラス箱の檻をうえから覗かれているようだ。