クレイジーワールド
二人が辿り着いたのは古い教会だった。
ここは一人の老神父が建てた物で、いつの時間も礼拝堂は民に開放されている。
この礼拝堂は朝は参拝者がちらほらと見えるが、
流石に夜中は誰もいないので明かりも灯っていない。
だが、家の無い孤児の二人には雨風がしのげるだけで十分だった。
ギギィ…と音を立て古びた礼拝堂の扉が開いた。
さっきまで冷たい冬の風に晒されていた二人には、室温が高いとは言えない建物の中でも
多少は温かく感じるものだ。
二人は祭壇の前の赤い絨毯が敷いてあるところに座り込んだ。
「寒かったね…傷、痛いよね?顔も腫れてるよ…」
「こんな傷、舐めとけば平気だよ」
薄暗い礼拝堂で二人はステンドグラス越しに見える月の光だけに照らされていた。
「血、出てるもん…」
エミィはジェイの腕を掴んで自分に引き寄せる。
「つっ…!」
痛みに一瞬表情を歪ませるジェイを見て、エミィはいたわるように傷を撫でた。
「手もすごく冷たいよ…」
エミィはジェイの片手を両手で包み込むと祈るようにして自分の胸の前まで持っていく。
感覚の無かった手はエミィの体温でだんだん蘇って来る。
エミィは握っていた手を解くと、ジェイの手の甲の傷にそっと口付ける。
そしてボロボロのスカートのすそポケットから両刃のナイフを取り出すと、
更に一緒に取り出したジッポ(ライター)に火をつけ、刃の先を炙った。
ナイフもジッポも、ジェイが旅行者や街の人々から目を盗んでスッてきたものだった。
「痛いかもしれないけど、我慢してね…」
エミィは傷口に軽くナイフをあてると、新たな傷を作るようナイフをひいた。
「…っっ…!」
新たに傷の上に出来た傷からはふつふつと血の玉が浮いてきて、
やがて手の甲から流れ落ちるまでになった。
するとエミィがジェイの傷口に口を付け、余分な血を吸い出してからごくりと飲み込んだ。
「吸い出した血なんて、ぺッて捨てればいいのに」
「駄目だよ床が汚れちゃうもの…神父様が困っちゃうよ。……傷、痛い?」
「……ん、平気」
別に床が汚れるくらい良いじゃないか。
少し不満が残るが、エミィの言う事はきちんと聞くジェイだった。

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