クレイジーワールド
日も暮れ、街を静かに照らすのは街灯のみとなっている。
そんな街の中を冬の冷たい風が通り過ぎて行くなか、
その微々なる光を放つ街灯に照らし出される影があった。

「ハァ…ハ…ッ」
まるでボロキレのような服を纏った少年は、
地面に膝を付き、苦しそうに腹部を抱えながら長距離を走った後のような荒い呼吸を必死にととのえようとしていた。
そんな少年の全身は何かでど突かれたように痛痛しく腫れ上がっている。
その痛みのせいもあって気が動転しているのか充分な酸素を取り込めずにいた。
後頭部からは血が滲み、寒さのせいもあってか指は真っ赤でもう感覚が無さそうだ。
特に酷いのは顔で、思いっきり殴られたような腫れがとてもよく目立つ。
少年のみずぼらしい身なりから察するに孤児(みなしご)なのだろうか。
「糞ガキがぁ…!」
そんな苦悶している少年の顔を見下ろし、目の前に立っている男は手にしているこん棒をかまえ勢い良く振り下ろした。
ガンッ!!
「ぐぁあっ…!」
鈍い衝突音が響いたかと思えば、男は少年の頭部を思いっきり殴りつけていた。
少年は血を流しながらその衝撃で後方に倒れ込む。
大人の男に殴りつけられたら華奢な少年の身体なんてひとたまりも無いだろう。
痛みで一瞬腕の力がゆるみ、抱え込んでいた腹部から林檎がひとつ転げ落ちた。
「!」
激痛で意識が朦朧とするなか少年はそれに気付くが、成す術もなく威嚇するように男を睨みつけた。
「…何だその目は…やっぱりひとつ隠し持ってやがったんじゃねぇか!!」
男はまたこん棒を振り上げた。
少年は反射的にぎゅっと目を瞑る。
「この盗っ人がぁあああああ!」
激情した男のこん棒が少年に再度襲いかかった。
ドスゥッ!
「が…はっ!」
今度は仰向け倒れた少年の腹部に衝撃が走る。
今ので臓器もやられてしまったのか、口からも血を流しながら少年は苦悶する。
「ぐぅう…っ」
少年の頬には一筋の涙が伝い、冷たい風がその涙を一瞬で冷やした。
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