クレイジーワールド
そんな時、外壁の影から少年のもとに駆け寄る一つの影が。
「はっ…ぁ…ジェ、イ君…ジェイ君っ」
それは少年と同じようにボロキレのような服を纏った少女だった。
少女と少年はよく顔が似ており多少の性差はあるものの、ぱっと見見分けが付かない程で、少年と少女は二卵性双生児らしい。
少女は少年の名前を呼びながら、必死に少年の元に駆けてくる。
その声はか細く、荒い呼吸と涙でくぐもっていた。
少女は身体が弱いのかあまり早く走れ無いようだ。
「エ、ミィ…」
ジェイは駆けてくる少女の存在に気付くとその少女の名前を呼んだ。
少女の名はエミィというらしい。
「はっぁう……っきゃぁっ!?」
フラついた足取りで駆け寄ってきたエミィはジェイの目の前でつまづいた。
「あ…」
「エミィ!」
ドサッっという音がしてエミィはジェイに覆い被さるような体勢になり、
少し体を上げてエミィを支えたジェイは衝撃で後頭部をごつんと打ってしまう。
だがジェイは自分の負傷よりエミィの方が気がかりなのか、
さっきまでの痛みよりエミィの心配をしていた。
さっきまで反抗的だったジェイの態度は打って変わって、優しさに満ち溢れていた。
勿論その優しさはエミィに向けられている。
「あ…ジェイ君!ジェイ君っ…!大丈夫!?大丈夫なの!?」
エミィは少年に覆い被さったまま頭をぎゅうっと抱き締める。
彼女の目からは大粒の涙がひとつ、ふたつと落ちて来て、ジェイの額を濡らした。
「…大丈夫、だよエミィ…」
ジェイは彼女をなだめるように優しい声をかける。エミィの胸に顔を埋め、背中に手を回した。
「ぅぁ…ジェイ君、う、わぁあああああんっ…」
「泣かないで、可愛い顔が台無しだよ。エミィはお姉ちゃんなのに泣き虫だね」
「だ、ぁって…ジェイ君その怪我…ぅぁあああっ」
ジェイは彼女に触れているだけで癒されていくような感覚に陥る。
「大丈夫。大丈夫だから…」
まだ傷は多少痛むけど、エミィの前だと少し忘れることが出来た。
エミィを心配させたくない。
お願いだから悲しまないで…
< 7 / 16 >

この作品をシェア

pagetop