秘密の片思い
包み込まれた手を愛は動かずじっと見ている。


包み込んだだけで郁斗は何も言わなかった。



* * * * * *



食事を終えた2人は砂浜へ出ていた。


郁斗の手に引かれて愛は黙って砂浜を歩いていた。




「愛、本当に本当の事が知りたいのか?自分の心を閉ざしてまで消した記憶を」


「・・・・」


「今はまだその時期じゃないんだ 今は身体を治す事が最優先して欲しい」


「・・・気になるの・・・何かを忘れている気がして・・・大事な何かを・・・」


今にも泣きそうな表情の愛に郁斗は胸が痛む。


表面的には忘れても記憶の底に残っている大事なもの。



「それは・・・6年間分忘れてしまったのだからそう思うのも無理はない 身体が癒えれば自然と思い出す 思い出さなくても俺が愛する愛に違いないんだから」


これで分かってくれなければ真実を告げるしかない・・・。


郁斗は表情には出さなかったが苦悩していた。



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